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山口地方裁判所 昭和26年(行)37号 判決 1953年1月19日

下関市大字新地町一町内

原告

垣見平二

右訴訟代理人弁護士

塚田守男

下関市山の口

被告

下関税務署長

門脇惇

右指定代理人大蔵事務官

服部賀寿男

島津巖

米沢久雄

板谷教造

岩田隆之

中井四郎

法務大臣指定代理人広島法務局長

西本寿喜

広島法務局訟務部長 長谷川茂治

法務事務官 大下助一

右当事者間の昭和二十六年(行)第三十七号所得税更正決定並に同決定に対する変更決定取消請求事件について当裁判所は次のとおり判決する。

主文

原告の本件訴を却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は「被告が原告の昭和二十五年度の所得金額を、昭和二十六年四月五日附で金二十五万円とした更正処分並びに同年八月十三日附で石所得金額を金三十六万円とした再更正処分はいずれもこれを取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求原因として、原告は訴外市村ナヲ、宇山リウと三名で「勝屋」というカフェーを共同営業しているものであるが、昭和二十五年度の所得金額を金十二万五千円とする確定申告書を被告に提出したところ、被告は右申告に対し、同二十六年四月五日附で原告の昭和二十五年度の所得金額を金二十五万円と更正した。そこで原告は原告等の営業は振わなかつた事情を被告に具申したところ、被告は同年八月十三日附で原告と共同営業者である訴外市村ナヲに対しては所得金額十一万円、訴外宇山リウに対しては所得金額金六万円と再更正しながら原告に対してはかえつて所得金額を金三十六万円と再更正した。よつて原告は被告の右更正処分に対し昭和二十六年四月二十五日被告に再調査の請求をしたところ、被告は同年十月二十日附で原告の昭和二十五年度の所得金額を金三十六万円とし原告の請求を棄却する決定をした。

しかしながら原告は右訴外市村、宇山両名と損益は平分の約で右カフエーを共同経営している者で、他には営業はなく所得もないのであるから右訴外人等と所得金額において大差あるはずはなく原告のみ金三十六万円を所得するはずがないのであつて原告の右昭和二十五年度の所得は金十二万五千円にすぎない。従つて被告の右更正処分並に再更正処分は不当であるからこれの取消を求めるため本訴に及んだと述べ、

被告の本案前の抗弁に対し被告の右再調査の決定に対して審査の請求はしていないが、再調査の請求をすれば訴訟要件を満たすのであつて審査の請求を経なければならぬものではないと述べ、

立証として甲第一乃至第十二号証を提出した。

被告及び法務大臣指定代理人等は本案前の抗弁として主文第一、二項同旨の判決を求め、その理由として原告は被告の昭和二十六年四月五日附の更正処分に対しては原告主張の日に被告に再調査の請求をしたので、被告は同年十月二十日附で右請求を棄却する決定をし同決定を翌日原告に送達したが、原告はこれに対し審査の請求をしていないので審査の決定は経ていないし、被告の同年八月十三日附の再更正処分に対しては原告は再調査の請求もしていないのであつて再調査の決定はもち論審査の決定も経ていない。従つて原告の本訴請求は訴提起の要件を欠く不適法のものであると述べ、

次いで本案について「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として原告主張事実中、原告が原告主張の如きカフエーを営業していること、原告が昭和二十五年度の所得金額の確定申告書を被告に提出し、被告が原告主張の日に原告主張の如き更正処分並に再更正処分をなしたこと及び原告が昭和二十六年四月二十五日被告に再調査の請求をなし被告が原告主張の日に原告主張の如き決定をなしたことは認め、その余の事実は知らないと述べ、被告の更正処分並に再更正処分は被告の調査の結果更正したものでその賦課処分は適法且正当で何等違法の点はないから原告の本訴請求は失当であると述べ、

甲第一、第二、第十一、第十二号証の成立を認め、じ余の甲号各証はしらないと述べた。

理由

よつて原告の昭和二十五年度の所得額に対する被告の更正処分並に再更正処分の取消を求める原告の本件訴の提起が適法であるか否かについて判断するに、所得税法第四十八条第一項、同第四十九条第一項及び同第五十一条第一項によれば同第五十一条但書に規定する場合を除いては、右被告の更正並に再更正処分に対しては再調査の請求をし同決定に対し審査の請求をし、審査の決定を経たのちでなければその取消を求める訴を提起することは許されず再調査の請求に対する決定を経たのみではまだ訴提起の要件をみたしたということはできないものと解すべきところ、原告が本訴において取消を求める右被告の更正並に再更正処分に対しては審査の請求をせず従つて審査の決定を経ていないことは当事者間に争のないところであり、原告が審査の決定を経なかつたのは所得税法第五十一条第一項但書に規定する事由によるものであるとの主張も立証もなく、又原告が昭和二十六年四月二十五日被告に対してした本件処分に関する再調査の請求について被告が同日から六ケ月以内である同年十月二十一日に右請求に対する決定を原告に通知したことは原告の明らかに争わないところであるから原告の審査の決定を経ない本訴提起は結局所得税法第五十一条第一項により訴提起の要件を欠き不適法であるといわねばならない。

よつて原告の本件訴は不適法として却下することとし、訴訟費用の点について民事訴訟法第八十九条を適用し主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 御園生忠男 裁判官 黒川四海 裁判官 大前邦道)

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